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腹部大動脈瘤について

Q1.腹部大動脈瘤(Abdominal Aortic Aneurysm)って何?

腹部大動脈瘤は腹部大動脈という比較的大きな血管(木で言えば幹のようなものですね)が膨らんでできた瘤(コブ)です。イメージとしてはこんな感じです(腹部の動脈を抜き出して描いています)。高さで言えば、おへその高さくらいです。

もともと生まれたときは上図左のような血管ですが、生活習慣や年齢の影響で動脈硬化が進んでくると、上図右のように血管の一部が大きくなってくることがあります。ただし、そもそも血管の太さは部位によっても違いますので、どこからが「ただ太く」てどこからが「動脈瘤」なのか基準を設けなくてはなりません。一般的には、「正常の太さの1.5倍以上拡大」してきたらそれは「動脈瘤」であると定義します。腹部大動脈の正常径は約20mmですので、直径が30mmを超えると「腹部大動脈瘤」と呼ぶことになります。

原因としては「動脈硬化」がほとんどですが、他に「炎症性」「感染性」「外傷性」「先天性」も存在します。また、女性よりも男性に多い病気です。

 

A1. 大動脈瘤とは、「大動脈の一部の壁が、全周性、または局所性(径)拡大または突出した状態」である。腹部大動脈瘤は直径が30mmを超えるものをさす。

 

Q2. 腹部大動脈瘤を放置した場合どうなるの?

それでは、腹部大動脈瘤がある人の行く末はどうなるのでしょうか。

腹部大動脈瘤は、人によって拡大速度は違いますが、通常は段々大きくなっていきます。

大きくなった腹部大動脈瘤はある限界を超えると破裂します。正確には、動脈壁に亀裂が入って、血液が血管外に流れ出します。血管の中はものすごい圧力ですから、勢いよく血管から血液が飛び出してくるわけです。通常は、背中側の膜に覆われた組織(後腹膜)に出血することが多いですが、中には腹腔内(小腸や胃などがはいっている空間です)や消化管の中そのものに出血をきたすこともあります。いずれにせよ、大量の血液が失われ、体の臓器に血液が届かなくなります。この状態を放置すれば、早々に命を落としてしまう、大変危機的な疾患です。

では、どのくらいの大きさになったら破裂するのでしょうか。今では放置する人が少なくなってきたので、少し昔のデータ(2003年のNew England Journal)になりますが、3年の経過では動脈瘤径が4cm未満の人で約1-2%、4cmから5.5cm未満の人で約10%、そして5.5cm以上の人で約80%の人が破裂すると報告されています。大きくなればなるほど破裂するリスクは高いということです。また、拡大速度が早い場合や血管から突出した形状(嚢状動脈瘤)の場合も破裂の危険性が高いとされています。さらに、女性の方が男性よりも3倍近く破裂するリスクがあり、高血圧、喫煙、慢性閉塞性肺疾患合併になると破裂リスクを助長します。

破裂時には非常に強烈な痛みを生じます。腹痛や腰痛であることが多いです。

 

A2. 徐々に拡大し、時期が来れば破裂します。特に直径が5.5cm以上のものは破裂する危険性が高いです。破裂するときは強烈な痛みを伴います。

 

Q3. 腹部大動脈瘤の症状にはどういったものがあるのですか?

残念ながら自覚症状は乏しいというのが特徴の一つでもあります。痩せている人であればお腹を触れば、ドクンドクンと拍動した腫瘤を感じることができるかもしれません。これで発見される人は運が良い人でしょう。通常の健康診断の項目(血液検査、胸部レントゲン検査、心電図検査)ではまず発見されません。また、日常生活を送る上で、何か支障をきたすということでもありません。

他の病気の精査のために行われたCT検査で偶然に発見される人、開業医の先生による腹部超音波検査で偶然に発見される人、人間ドックで発見される人がほとんどです。

稀なケースとしては、あまりに動脈瘤が大きすぎて消化管を圧迫することによる食欲不振をきたすことがあります。また前述したように破裂した場合は腹痛または腰痛を伴います。

 

A3. 症状はほとんどなし。なので、人間ドックで指摘される以外は、偶然に発見されることが多い。

 

 

Q4. 腹部大動脈瘤の治療法にはどういったものがあるのですか?

治療法としては大きく分けて2通りです。「腹部大動脈人工血管置換術」「腹部ステントグラフト内挿術」です。日本循環器学会のガイドラインでは、4.5cm以上は手術を考慮する段階であると記載されています。

腹部大動脈人工血管置換術は、腹部正中切開による腹腔経由の手術と左傍腹直筋切開による後腹膜経由での到達方法があります(当施設ではどちらも可能です)。どちらも大動脈に直接到達し、大動脈瘤を切除し人工血管に置き換える手術となります。用いる人工血管はY型のものとI型のものがありますが、Y型を用いるケースがほとんどです。後述する腹部ステントグラフトと比較しても古くから施行されている術式であり、また手術成績も安定しています。また、腹部大動脈と人工血管を直接吻合していますので、接続状態は確実となります。腹部大動脈瘤も切除されることになりますので、破裂のリスクはゼロになります。ただし、体に対する負担は、後述する腹部ステントグラフト内挿術と比較すると大きくなります。術翌日あるいは術翌日あたりから食事摂取を再開します。腸管の動きの回復次第では、日数を空けてからの再開となることもあります。術後新たに必ず追加になる薬はありません。若年者の方向けの手術です。手術時間は、2時間30分から4時間です。

 

腹部ステントグラフト内挿術は、両足の付け根を約3cm切開し、大腿動脈と呼ばれる動脈からカテーテルを挿入し、人工血管とバネ状の金属が一体となったものを動脈内に留置することにより瘤を隔離する方法です。こちらも血管の中で組み立ててY字型にすることが通例です。このことで大動脈瘤自体は残存しますが、血液はステントグラフトの中のみを通ることになり、大動脈瘤への血流の流入はなくなります。血液の流入がなくなると当然圧力もかからなくなるので、大動脈瘤の破裂の危険性がなくなるという治療です。腹部大動脈人工血管置換術と比較すると、体にとっては優しい治療と言えます。ただし、腹部大動脈瘤自体はその場に残りますので、ステントグラフトの隙間から漏れた場合は、動脈瘤に圧力がかかり、破裂のリスクを負うことになります。当院では5年間で約90%の方は何も治療の必要がないと判断され、そのまま経過観察されています。8%の方は何らかの追加血管カテーテル治療が必要であり、2%の方が腹部大動脈人工血管置換術やそれに準じた手術が必要になっています。術後新たに追加になるという薬は通常はありません。ご高齢の方向けの手術です。手術時間は1時間から2時間です。

A4.腹部大動脈人工血管置換術と腹部ステントグラフト内挿術があります。どちらが適切かどうかは患者様の状態と血管形状によります。主治医とよく相談しましょう。

 

 

Q5. 福島県立医科大学で、腹部大動脈瘤に対する手術はどれくらいやっているのですか?

A5. 2018年は40例の腹部大動脈瘤の治療を行いました。

 

 

 

Q6. 手術の合併症にはどんなものがあるのでしょうか。

出血  どちらの術式を選択しても、血管を扱う手術ですので、出血のリスクを伴います。出血の程度が甚だしければ、輸血を行う必要があります。術後もドレーンからの出血が多かったり、皮膚の下に血の塊(血腫)を来たし増大傾向にある場合は勿論、再手術(止血術)の対象となります。

腸管虚血  腸の血流が滞り、腸の細胞が壊死することがあります。最悪の場合腸を切除する必要が出てきます。人工肛門増設を要することもあります。

血管損傷  腹部大動脈人工血管置換術の際は、動脈の遮断が血管損傷のリスクとなります。腹部ステントグラフト内挿術では、ステントグラフトを目的の血管の場所まで運んでいく際に通り道の血管を損傷する可能性があります。血管損傷を来した場合は直接、皮膚から血管に到達し、止血修復術(人工血管置換術を含む)をすることもありますが、ステント(stent)留置などの血管内カテーテル治療で処置可能であれば、これで対処することもあります。また、ステントグラフトを留置した事による大動脈解離という合併症も存在します。当院でも1例経験がありますが、幸い大きな手術による処置は必要ない形態(B型大動脈解離)であり、経過観察としています。進展すればやはり人工血管置換術が必要になります。

心機能障害  腹部大動脈人工血管置換術では大動脈遮断が心機能障害とリスクとなります。血圧が高くなり、血管抵抗が高くなることから心臓に負担がかかります。もともと心臓の機能が低下している方は要注意です。術前の心臓機能をよくチェックしておく必要があります。一方、ステントグラフト内挿術では心臓にはそれほど負担をかけません。

血栓塞栓症(コレステリン塞栓症)  腹部大動脈人工血管置換術と腹部ステントグラフト内挿術の両方で起き得ます。動脈硬化の産物(プラーク)や血栓が、手技の過程で血中に飛散し、末梢の血管を閉塞してしまう合併症です。下肢の末梢を閉塞した場合は、最悪切断術を考慮することもあります。腎臓にとんで腎障害となれば、人工透析が必要になる場合もあります。

腎障害 上述したコレステリン塞栓症の他に、腹部ステントグラフトでは造影剤による副作用としての腎障害を呈することがあります。この場合一時的に人工透析を施行することもあるかもしれません。

脳梗塞  腹部ステントグラフト内挿術では、カテーテルが脳へ分枝する血管の近傍を通過するので、血栓塞栓症による脳梗塞を来す可能性がありますが、現時点(2019年)で腹部ステントグラフトによる脳梗塞を来した方は当院ではゼロです。

エンドリーク 腹部ステントグラフト内挿術特有の合併症です。動脈のステントグラフトの隙間から血液が瘤内にもれてしまう現象です。5つのタイプが存在しますが、タイプによっては追加治療が必要なものもあります。

感染 人工血管もステントグラフトもどちらも人工物(インプラント)です。人工物は細菌の培地となりやすいことが知られています。感染が判明した場合、異物は抜去するのが原則ですが、全身状態を考慮した場合、そうした手術が難しい場合もあります。

 

A6. 頻度は高くはありませんが、合併症はあります。

 

Q7. 結局、腹部大動脈人工血管置換術と腹部ステントグラフト内挿術ではどちらが良いのですか?

腹部大動脈瘤を破裂する爆弾に例えると、腹部ステントグラフト内挿術では、爆弾が体に残るものの、火薬が除去されるような状態になると考えることができます。火薬が除去されることになるので、結果として爆弾は爆発しません(動脈瘤は破裂しません)。一方で、腹部大動脈人工血管置換術は、火薬とともに爆弾そのものも除去するといった状況に例えられます。どちらがより完全な治療方法に近いかというと、動脈瘤の処理といった観点から言えば、爆弾そのものも除去している腹部大動脈人工血管置換術の方が優れています。ただし、手術の大きさ(侵襲度)は腹部ステントグラフトの方が小さいので、体には優しい治療といえます。

血管の形態からみると、あまり複雑な走行している血管では当然、腹部ステントグラフトは不利になります。前述したエンドリークの可能性が高まります。不完全な爆弾の火薬処理になる可能性があるということです。腹部ステントグラフトに適した血管は、まっすぐで比較的均一で、血管内の性状が良いのもののほうが好ましいのです。

 

A7. それぞれの治療には一長一短があります。どちらが適しているかは、外来でよく主治医と相談しましょう。

 

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